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 方夕・本文サンプル・蛍
 「椿妃―つばきひめ―」

 

 女性を花になぞらう時、それは大体良い場合でないことは多い。そうではない時もあるのだろうが、方淵の脳裏にはいまだ前王の印象があるからか、花と女性が繋がる時は、顔をしかめてしまう。
 前王時代、王宮は華やぎ過ぎていた。今はともかく、話に聞いていても自分の想像出来る範囲を超えていると思ったほどで、これほどにか、と半ば唖然とした。前王は女や遊びに溺れきっていた。それは王宮にまだ出仕していなかった方淵でさえ、わかった。
 今の王―黎翔―が現れた時、その台頭の仕方もあったのだろうが、方淵の王宮に対する意識が一変した。
 それはまるで世界が変わったような印象すらあった。
彼のもとで仕えたい――と強く思ったのは自然の流れだろう。
そしてようやく、その機会が巡ってきた。その任命と共に、不穏当な指令も受ける。その前には敬愛する狼陛下が妃を娶っていた。
その事実は、方淵の心を複雑にさせる。冷酷非情と呼ばれる自分の敬愛する狼陛下の花嫁は、いったいどんな人物なのだろうか。その出自は明らかにされていないだけに、方淵の心は複雑に揺れる。
仕事は割り切るつもりだが、実際に見ることが出来るのなら、自分で判断したい。
 そして方淵の前に、姿を現わした妃――夕鈴は、方淵の予想をことごとく裏切った。
 出自の明らかにされていない妃は近くにいても、鼻をつく嫌な臭いはそんなにしていなく、狼陛下が選んだ、という割には、おとなしい風貌の持ち主だった。
 けれども、父や周囲が画策している縁談を断り続けた挙句に選んだ女性なのだから、よほどなにかがあるに違いない。
 ――見た目があれであるなら、きっとその容姿とはかけ離れた手練手管で、陛下の心を奪い取ったのだろう――ある意味、要注意だな。油断は出来ない。
 だから方淵はいつも警戒心を抱きつつ、夕鈴と接した。
 しかし自分もだが、彼女は大層大人げなかった。
 数度見かけた前王の花たちは皆一様に言葉の攻撃に対しては、わからない、と媚を売るように微笑んでかわすか、大袈裟に嘆きながら王に救いを求めるかしていた。
 だが夕鈴は真っ向から方淵に対し向かってくる。そして夫である黎翔に救いを求めない。
 ――陛下が、少し淋しいと感じるほどに。
 夫婦とは、惹かれあう男女が行うものだ。
 今の夕鈴は出自が明らかにされていないので、彼女の肩書きは妃以外ないし、おそらく後付けで明らかにされることはないだろう。だから政略的な意図での婚姻でないのは、誰もが周知するところである。
 黎翔が夕鈴に惹かれて、その逆も然りであるなら、それはそれでいい。けれども臣下として、前王の轍を踏ませたくはないので、この変わり種妃が傾国をもたらさないよう、方淵は多少認識を改めつつも、彼女に対しての姿勢は崩さないようにしようと決めたのだった。
 ――花は、男を惑わせる。花である以上、いつ毒花に変わるか、その花でさえ知らないのだから……。
 父の今の地位のせいか、そういう印象もあった。
 それでも前王は、花に溺れ過ぎた。
 狼陛下がそうならないと誰が云えよう。方淵も信じたいが、自分がどうなっても、狼陛下には前王のようになってほしくはなかった。
 だから方淵は夕鈴となにかにつけて、対峙する。そう決めたのだった。




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